第7話 ああ宝石警備

ググレの屋敷



ヒューイ 「これがオルフェウス……」


システィナ 「きれい……」


オクト 「(この大きさでエメラルド……。
      ガラス玉じゃないんだよな)」


ネクラーズ一行はこの屋敷の主・ググレ氏の依頼で、宝石警備に当たる事になった。
その警備対象が、目の前のガラスケースに保管されている巨大なエメラルド、
『オルフェウス』である。


ヒューイ
「ま、伊達に伝説の吟遊詩人の名前を冠しているわけじゃないってところか」


ザワード 「怪盗ラスターから届いた予告状では、これを無償で頂きに参上するとあった」


そして、彼が今回の警備責任者“自称名探偵”のザワード。
ネクラーズ一行は、あくまで警備の数あわせとして呼ばれたのである。


ザワード
「君達に見張ってもらうのは、前の廊下だ。
 この部屋では、私とググレ氏が交代で、寝ずの番をする予定になっている」


ケネス 「分かりました」

廊下



オクト 「早くも飽きてきた」


ルーシー 「早すぎますよ」


システィナ
「ところでケネスさん、怪盗ラスターって何者なんですか?」

ケネス
「え、ああ、うん。
 怪盗ラスターは……」


怪盗ラスター。その華麗な盗みの手口で知られる大泥棒。
盗みはすれど非道をせず。弱きを助け、強きをくじくという噂の怪盗である。


ケネス
「悪徳商人からお金を盗んで貧しい人に寄付したり、
 高利貸しから証文を盗み出したりしているらしいよ」

システィナ
「へえ。世の中には奇特な人がいるものですね」

ルーシー
「盗みは盗みですよ。悪に対抗するにしても手段が悪すぎます」

ヒューイ
「……俺はどっちでもいいわ。
 しっかし、ルーシー。
 自分に関係がない事でそんなに熱くなれるって、なんかいいな」

ルーシー
「ヒューイさんっ!」

オクト
「(生ぬるい笑み)」


ベルク 「……誰か来る」


ベル 「お仕事ご苦労様です。皆様の御夕食をお持ちしました」


オクト 「ああ……メイドさんか。
 ありがとう、置いといてくれるかな」

ベル
「はい、それでは」


ベルはワゴンを押し、展示室の方に去っていった。


ヒューイ
「オクト、ちょっと味見をしてみてくれ……
 うん、特に問題なさそうだな」

システィナ
「……?
 あの人は身元のはっきりしたメイドさんですけど」

ルーシー
「相手は変装の達人でもありますからね。
 全員を疑った方がいいでしょう」

オクト
「(なんだかんだ言って、呼吸はあってるんだな)」

ベル
「(戻ってきて)あら、お食事が済んだようですね」

ヒューイ
「ああ、美味かったよ。シェフに伝えてくれ」

ベル
「はい、お粗末様でした」


ベルは食器を回収し、来たときと同じようにワゴンを押しながら去っていった。


ケネス
「あと2日、か」

二日目



オクト 「……投光器?」


一般騎士 「ああ、古代文明の遺産の一つさ。
         スイッチ一つで、夜でも昼間みたいに明るく照らせるんだぜ」

オクト
「へえ、そんな便利なもんがねえ」

一般騎士
「だがせっかく怪盗が投光器で照らされても、
 それを攻撃できなかったら意味がないからな」

オクト
「わーかってるよ。大丈夫だ」

一般騎士
「おう、頼むぞ。さてと、俺は見回りに戻らないといけない。 あんた達も、しっかり頼むぜ。」


ケネス 「……ん? なんだろ、これ?」

システィナ
「マジックアイテム……みたいですねぇ」

ヒューイ
「虫眼鏡か……
 こんなものを持っていそうなのは……あの“名探偵”くらいのものだろ」


ベルク 「名探偵業のタネはこの虫眼鏡ということか」


だからといって、わざわざ届けに行く義務もない。
ケネスは虫眼鏡を荷物袋に入れた。


ケネス
「あと1日、一体どうなるのかな」

三日目



ケネス 「午後7時35分……」


システィナ「そろそろですねっ」

オクト
「……なんだか楽しそうだな」

システィナ
「それはもちろん! だって怪盗ですよ、怪盗」

ルーシー
「お仕事ってことを忘れないでくださいね」


ベル「お食事の用意ができました」


ヒューイ「ああ、ありがとう。置いといてくれ」

ベル
「……かしこまりました」

ケネス
「ヒューイ、もしかして……」

ヒューイ
「ああ。オクト、調べてくれ。」

システィナ
「そこまで疑うことですか?」

ヒューイ
「念には念を入れているだけだよ。依頼は失敗できないだろ」


オクト「……これは」


オクトは食事を少し口に含むと、ペッとはき出した。


ベルク
「まさか……」


オクト「舌に違和感があった」


システィナ「ど、毒ですか……?」

オクト
「断定はできないが……食べない方がいいだろう」


ケネス「(時計を見て)午後7時58分、波乱が起きそうだなあ」


ボーン ボーン…… 大時計の鐘が8時を告げる


システィナ
「何も起きませんけど……?」

ケネス
「……そうだね。 怪盗ラスターは予定の時刻に遅れたことはないはずなんだけど」


やがて、展示室の方から、ワゴンを押してベルが帰ってきた。



ベル「!!!」


ヒューイ「よう、ベルさん。 怪盗ラスターはどうした?」

ベル
「……怪盗ラスター? そんな人は来ませんでしたよ。
 ご主人様もほっと胸を撫で下ろし、皆さんに解散を命じられました。
 報酬は責任を持って、後日お支払いになるそうです」

ヒューイ
「……そうか。それにしても静かだな。静かすぎる。そう思わないか、ベルさん?
 いや、怪盗ラスター!!」


言うが早いか、ヒューイは、サラダの中にあったトマトをベルに向かって投げつけた。


ベル
「な、何を……」

オクト
「食べ物には異物が混入されていた。そのトマトにもな。」

システィナ
「この静かさです、おそらく睡眠薬でしょう……
 そして、皆が眠っている中でただ一人活動している人物がいるとすれば、
 それは怪盗ラスターしかあり得ません」


ベル「……へぇ、なかなかやるじゃない」

ケネス
「ベルさん、やはりあなたは……!」

ベル
「そうだよ。あたしが怪盗ラスターさ!」

ヒューイ
「オルフェウスを返してほしい。そうすれば命までは取らない」

ベル
「1対6か……。まともにやりあう気はないよ」


ベルは、メイド服を脱ぎ捨てた。次の瞬間ベル、いや、怪盗ラスターはシルクハットを被り、
マント付きのタキシードを着、顔に仮面を付けた怪盗の『仕事着』へ変身してた。



怪盗ラスター「はっはっは。 あたしを捕まえられるかな? シルフィード!」


怪盗ラスターは、シルフィードの起こす風に乗り、シャンデリアに飛び乗る。
そしてそのまま振り子運動を開始し、さらに高いガラス戸を蹴破り、脱出する。


ケネス
「…………」

オクト
「い、いかん。あっけにとられている暇じゃない。追うぞ!」
ルーシー
「今からじゃ間に合いませんよ!」

オクト
「そうだな……投光器という道具があったはずだ。
 俺とおやっさんはそっちに回る。みんなは地上を警戒してくれ。」

ベルク
「よし、行くぞ!」


オクトとベルクは教えられた投光器の位置まで走った。



オクト「あれは……」


怪盗ラスター「さすがの君達も、ここまでは追ってこれまい。
           トンズラさせてもらうよ………」

ベルク
「なんだ、あれは……」

オクト
「俺が知るか! ……しまった。遠距離攻撃用の武器を持っていない」

ベルク
「何!? 確かお前、あの兵士との会話で……」

オクト
「いや、あの時はほら、メンツとかあるだろ、冒険者として」

ベルク
「(やれやれ)ヒューイを連れてきてればよかったな」

オクト
「あーー! ちくしょーーー!!」

一方その頃、地上に回ったメンバーは



リカルド「よし、警備は終わりだ。全員、集合」


一般騎士「点呼をとるぞ。番号!」


「1」「2」「3」「4」「5」「6」「7」「8」


リカルド
「よし。全員揃ったな。それでは各自撤収準備にかかれ。自分はググレ氏の所に行ってくる」


リカルドはその場を去っていった。わいわいがやがや。治安騎士団達は撤退準備を始めだした。


ヒューイ
「ん? ちょっと待て…… 1、2、3……9人いる! 治安騎士が一人多いぞ!」

一同
「な、何だってー!?」


ざわ、ざわ……


ルーシー
「ど、どういうことでしょう」

ケネス
「怪盗ラスターは、変装の達人……」

ヒューイ
「そういうことだろうな。あの気球はハデなおとりだったんだろう」

ルーシー
「ということは……この中に犯人が!?」


ヒューイ「……簡単だ」

ルーシー
「へ?」

ヒューイ
「怪盗ラスターは変装の達人。だがこの短時間で匂いまでは消せないはずだ」

ケネス
「……トマトか」

ヒューイ
「そういうこと。少し情けない方法だが……全員の匂いをかいでいけば怪盗はあぶり出せる」


……………………



一般騎士「くっくっくっく。がっはっはっは」


怪盗ラスター「普段間抜けな治安騎士ばかり相手にしていたので、少々油断した様だ」

怪盗ラスター
「今回は君達の勝ちだな。宝石は返そう。だがついでにこの手紙も読んでみてくれたまえ」


残りの治安騎士達によって、怪盗ラスターは詰め所まで護送されていった。


冒険者の宿



宿の亭主「で、その怪盗から預かった手紙でググレ氏の悪事が暴かれたわけだ」

ルーシー
「情報が早いことで」

宿の亭主
「お前ら、新聞くらい読めよ……。それじゃあ、これも知らないんだな」


そういうと宿の亭主は、新聞の一面を冒険者の前にかざした。

怪 盗 ラ ス タ ー 、 奇 跡 の 大 脱 獄 !



ケネス「え……」

一同
「ええええーーーーーー!!!!」

システィナ
「あ、あんなに苦労したのに……」

宿の亭主
「何せ奴は変装の名人だ。何食わぬ顔で周囲に溶け込むのを最も得意とする大泥棒……」

宿の亭主
「ひょっとしたら、わしも怪盗ラスターの変装かもしれんぞ」

ケネス
「またまたー。冗談きついよ親父さんー」


だが。宿の裏手では――



「もがもが、もが(お前等気づけ! そいつぁワシの偽者だぁ!)」


 Mission Complete ! 

報酬
+1200(報酬)
+200(追加報酬 ググレを通報したことによる報奨金)

作者後記
まさに怪盗もの!といった痛快なシナリオでした。キャラ、シナリオ全体がエンディングに向かって一直線に疾走していく様は何とも爽快です。プレイヤーもゴールが分かっていながら、そこに走っていくことが楽しい。「やられたっ!」ことに対して「おおーー!!」と拍手できるスッキリとした後味。
久々に長めのものを書きました。ちょっと中ダレ入ってますけど、それはそれで。やっぱり彼らはドタバタものが似合います。出し抜かれっぷりがサマになっているのが何ともネクラーズ。そういった意味でもぴったりのシナリオでした。

著作権表記
シナリオ 「ああ宝石警備」(ハチミツ様)
ベル、怪盗ラスター(ハチミツ様)、ザワード、一般騎士(wwe様)、リカルド(groupASK様の素材を元にりら様制作)、宿の亭主猿轡(groupASK様の素材を元にハチミツ様制作)

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