第6話 偉大な教え


ヒヨッコ冒険者の諸君!
私の偉大な教えを聞きに来ないか?
冒険に役立つ物も貰えるかもしれんぞ。
         ---ヴェンデル=ベイト



オクト 「……こりゃまた、インパクトのある貼り紙だな」


宿の亭主「大方、街道場かなんかの勧誘だろう。そこまで大きく出たのは珍しいがな」


ルーシー 「……ここまで大上段だと逆に興味がわきますね。
        親父さん、どう思います?」

宿の亭主
「さあな。自分でヒヨッコだと思うんなら行ってみるといいさ」

オクト
「分かった分かった。
 ……とりあえず行ってみるか」

宿の亭主
「ちょっと待て、地図を描いてやる。"陽のあたる草原"に住んでいるらしいぞ」


ヒューイ 「へえ。草原に住んでいるのか……」

宿の亭主
「それが、どうやら森らしいんだ」


ケネス 「"陽のあたる草原"っていう名前の森だってこと?
      なんてややこしい……」


一行は"陽のあたる草原"に向かった。


ウェンデルの家



システィナ 「確かに森ですね。  ……というか、道場じゃなくて普通の家ですけど」

オクト
「一応、入ってみるか……」


家の中は、古びているがしっかりしていて、快適そうである。
しかし、とても冒険者相手の道場のようには見えない。



ウェンデル「(急に出てきて)おハロー!」

ケネス
「うわっ……ど、どうも」

ウェンデル
「ワシの偉大な教えを聞きに来たヒヨッコ冒険者じゃな?」

ケネス
「は、はあ」

ウェンデル
「おっと自己紹介がまだじゃった。
 ワシはヴェンデル。ヴェンデル=ベイトと言う。ウェン爺と呼んでくれ」


ヒューイ 「なんか駄目っぽいな……」


オクト 「ちょっと帰りたいんだけど」

ケネス
「それで、どんな『教え』を聞かせてくれるんですか?」

ウェンデル
「いやあ、実はなぁ…この裏にある森、
 "陽のあたる草原"にコボルトが住み着いてな…
 と、ここまで来れば分かるじゃろ」


ベルク 「……教えを受けるにはコボルト退治をする必要がある、と」

ウェンデル
「モチのロンロン。お主、なかなか見所があるの」


オクト 「なぁ、俺本格的に帰りたいんだけど」


陽のあたる草原


ヒューイ
「これは……体よくただ働きさせられてるな」

オクト
「くっそ、あのじいさん、元は冒険者でも何でもないんだぜ」

ルーシー
「剣も魔法も使えないって言ってましたよ……」


システィナ 「待って下さい……!
         あそこ、コボルトが居ます」


ヒューイ 「あれは……草原コボルトだな」

ケネス
「草原コボルト?」

ヒューイ
「コボルトにしちゃ勇敢な奴でな、洞窟よりも草原を好む種族だ。
 群れないで単独行動することが多い」

ベルク
「それは、逆に楽だな。
 6対1なら不覚は取らないだろう」

ヒューイ
「だろうな。ま、気合い入れていくか!」


<第1ラウンド>
ベルク、ケネス、ルーシーは攻撃。オクトはフェイント
攻撃は全て外れ。

<第2ラウンド>
システィナは『蜘蛛の糸』、オクトは『転倒』を使う。その他は攻撃



オクト 「ええい、『転倒』しろ!」

ヒューイ
「よし、今のうちに攻撃を集中させるぞ……!」


コボルトは第2ラウンドのうちに戦闘不能に陥った。



オクト 「よし、この調子でチャッチャと片付けるぞ」


その後、冒険者達は次々とコボルトを撃破し、森の奥深くへと進んだ



オクト 「こんなところに何故墓が……」


森の最深部、少し開けた所にポツンと墓が佇んでいた。
墓に寄り添うように剣と杖が置かれている。



システィナ 「……この杖、かなりの魔力を秘めています」


ベルク 「こっちの剣も、使い込まれたものだな」

ケネス
「ウェン爺さんは剣も魔法も使えないんだよね。
 ……誰の墓だろう?」

ヒューイ
「とにかく、コボルトも退治したし、一旦家に戻ってみるか」


ウェンデルの家


ウェンデル
「ふむ……そうか。それではもう一働きしてもらおう」

オクト
「マジかよ……」

ウェンデル
「アフターケアも冒険者の立派なつとめじゃ。
 コボルトが報復に来たらワシにどう立ち向かえと言うんじゃ」

ヒューイ
「それで、何をしたらいいんだ?」

ウェンデル
「うむ。倒れている奴らの顔にチョークで落書きをしてくるのじゃ!
 そうすれば、今後暴れ出してもチョークをチラつかせれば万事解決じゃ」

ルーシー
「トラウマを植え付けるんですか……。悪くない方法ですが……」


オクト 「……そうだ、じーさん。森の奥に墓があったけどあれは何だ?」


ウェンデル「見つけたか……。あれはワシの友人の墓じゃよ。
         そう、この"草原"を森に変えたな」

システィナ
「草原を森に変えた……?」


ウェンデル「もう20年も前の話じゃ。ワシとあいつはここにやってきたんじゃ」

ウェンデル
「あいつはいつも言っていたよ。
 『この草原を、子供の頃ここがまだ森林だった頃に戻したい』、と」

ウェンデル
「あいつは強かった。剣も魔法も得意だったから、
 草原に出るコボルトを毎日のように退治してくれた。
 ワシは草原に木を植え、森は順調に育っていった」


しかしある日のこと、友人はモンスターの毒に掛かり徐々に人狼と化してしまう。
「殺してくれと」叫ぶ友人に、若き日のウェンデルは何をすることも出来なかった。

結局、友人は自身で自分を始末してしまう――。



ウェンデル「……ワシは埋葬してやったんじゃ。あいつの好きな森林にな。
         剣と杖はあいつの愛用品なのだ」


オクト 「…………」

ウェンデル
「と、まあ。しんみりしてしまったが、悲しんでいても仕方ない。
 あいつも陽気な奴だったしな」

オクト
「…………」

帰り道



ケネス 「へへへ……。まさか魔術書がもらえるとは思わなかったね」


ヒューイ 「ま、仕事内容にしてはいい報酬だったな」


オクト 「(あの爺さんは、確かに剣も魔法も使えなかったけど――)」

オクト
「(見知らぬ土地で、友人の志を継いで草原を森に変えてみせた……)」


オクト 「偉大な教え、か……」

ケネス
「オクトー! 急がないと帰りの馬車に間に合わないよー!」


オクト 「ああ、すぐ行く!」

 Mission Complete ! 

報酬
『母なる風』 ケネスが所持

現在所持金 2200SP

作者後記
スリムなシナリオでしたので、久しぶりに最初から最後まで入れてみました。まあ、森の探索と落書きの部分はだいぶカットしていますが。スリムなシナリオと書きましたが、内容の方はコメディーの軽いノリにシリアスな話が埋め込まれ、ぎっしり詰まったものになっています。濃い内容をタイトに凝縮して、ストーリーを楽しみながらも遊びやすいものになっています。
さて、オクトにスポットを当ててみましたがどんなもんですかね。文章力がないんで内面的な事は書きにくいですね。十串には活劇しかないのかあ!?

著作権表記
シナリオ 「偉大な教え」(かど様)
宿の亭主(GroupASK様)、ウェンデル(りら様)

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